本シリーズでは、鉄道、バス、宿泊施設や道路の面から、2024年9月7日(土)・8日(日)に開かれる「ひなたフェス2024」での人流について考察してきた。
初回
宮崎で大規模イベントは開けるのか? – (1)「ひなた」の聖地は陸の孤島
https://ikeboichi.blog/255/
宮崎県は新幹線も通っていないような「陸の孤島」であり、インフラが未熟な県で動員1万人を超すような大規模イベントを開いても問題ないのか、という観点で考察してきたが、「どうにかなりそうだ」という結論に落ち着いた。
しかし、やはり各種インフラの規模が小さい・脆弱であるため、今後こうした大規模イベントを開くうえで問題になりそうなことがいくつもあるため述べていきたい。
来場者が少ない
第5回で、宿泊施設の数が少ないおかげで来場客が少なく、JR・バスで人を運びきることができる、という旨の考察をした。
しかし、来場者が少なければそれだけフェスの運営側に入る収入が少なくなるわけで、次回以降の開催には繋がらない。これが大規模イベントが地方で開かれづらい根本理由だろう。
大都市圏であれば、そもそも自宅から直接イベントに来る人が多いため、必要なホテルの数は(イベントの定員が同じ場合)地方開催と比べて少ない。
しかし地方では、普段の需要と大型イベント時の需要に差があり過ぎるため、宿泊施設が足りなくなってしまう。既存のホテルなども、かき入れ時ということもあって通常時の数倍に値段を跳ね上げて来る。ホテルの人も食べていかないといけないのでしょうがないが、これでは来場者はますます減ってしまう。
何らかの方法で、大型イベントの際のみ開く臨時ホテルようなものを設置できればいいのだが、恐らく旅館営業許可などの兼ね合いで難しく、また採算も取りづらいだろう。
個人的には、1985年のつくば万博の際に運転された国鉄の「寝台列車ホテル」が復活しないかと期待する。
万博会場に近い土浦駅を始発として、わずか9.2kmしか離れていない万博中央駅(臨時駅・現在のひたち野うしく駅)まで運転された列車で「エキスポドリーム号」という名前がついていた。21時台に「発車」するものの、そのまま土浦駅のホームのない番線に停泊し、翌朝7時台にようやく万博中央駅に向けて出発する、という運転をした。
普段から寝台列車として使われていた車輌が使われたため、「乗客」はベッドでゆったりと一夜を明かすことができたのだ。
ちゃんと駅から駅まで「運転」されているため、旅館営業の許可は必要ない。所定の切符・寝台券があれば「乗車」することができた。
参考:万博輸送の奥の手「寝台列車ホテル」 臨時特急運転も – 産経新聞
寝台列車がほとんど無くなった現代では使用できる車輌がないため、新しい車輌を作る必要があるのがネックだ。しかし「寝台列車ホテル」専用として造れば、高速を出すための設備が要らないため、多少はコストを抑えられるのではないだろうか。
夜は近くに温泉など身支度できる施設が近くにある駅に停車し、シャトルバスで温泉との間を行き来する形態とし、翌朝に別の駅まで「運転」する、という形態をとれば、シャワー室などを連結する必要がなくなるためより多くの車輌を寝台に充てることができる。
仮に7輌のカプセルホテル型寝台車、1輌のサービス用車輌(フロント、売店、発電機など)を連結した8輌編成であれば、推計で210室ほどの寝台が確保できる。
収容人数は微々たるものではあるが、イベント時のみ営業して値段を吊り上げれば、十分な収益が生み出せるかもしれない。
新幹線がない
初回で話した、鉄道時刻表ニュース氏の主張として、「新幹線がない県では大規模イベントは開くべきではない」というものがあった。
今回の「ひなたフェス2024」の場合、渋滞などで帰宅難民が生じる可能性は低いが、新幹線がないせいで前項の宿泊施設問題が生じている。
本題から逸れるが、宿泊施設のキャパシティからして、今回のライブに参加できる人は多くても2万人弱と思われ、会場となる「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」の定員に届くかどうか怪しい。
イベントを運営する側としても、定員数が少なければイベントが赤字になってしまうため、宿泊施設の収容人数が少ない地域では下手にイベントが開けないだろう。
これに関しては、鉄道時刻表ニュース氏の指摘通りだ。
参考までに、東京ドームのイベント時における定員は4万人~5万人だそうで、「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」の倍以上が入ることができる。今回も、イベント主催者は赤字覚悟で開催していると思われ、感謝に尽きない。
今回、隣県である大分県方面への移動は紹介してこなかったが、これは単に「時間的にアクセスできない」からだ。現在のダイヤだと、大分行きのJR終電に乗るためには会場近くの「運動公園前」バス停から17:48に出るバスに乗らなければならない(日南線はこの時間ちょうどいい便がない)
もし宮崎県に新幹線が通っていれば、宮崎県や鹿児島県以外の隣県にも宿泊ができるようになる。新幹線のルートによっては、大分県や熊本県の宿泊施設も使うことができる。
例えば熊本市や大分市のホテルであれば、宮崎県の新幹線駅22時半頃発が終電になると思われるため、夜まで行われるイベントであっても十分ホテルに向かう時間はあるだろう。
現在、宮崎県は新しい新幹線として、熊本県の九州新幹線・新八代駅から分岐して小林市・宮崎市方面に至る路線について調査している。もし仮にこの新幹線が実現するとしても開業は2070年頃になるだろうが、熊本市へは1時間弱、福岡市へは2時間弱で移動することができるようになり、イベントの採算も取りやすくなるのではないだろうか。
鉄道路線が貧弱
今回会場となった「ひなた宮崎県総合運動公園」へのアクセス路線であるJR日南線はローカル線であり、かなり規格が低いことも問題だ。
第4回で述べた通り、日南線は単線であり、列車の増発には限界がある。今回は平均して17.5分間隔という、ほぼ限界まで増発が行われたが、それでも輸送力は終演後に想定される利用者を運ぶにはギリギリだった。
より多くの輸送力を得る施策として、次のようなものが挙げられる。
- ホームを4輌編成以上が停められるように改良する
- より加速力のある車輌を導入する
- ドア数が多く、座席が少ない車輌を導入する(通路まで人が入れるようになるため)
- 折り返し設備を増強する(木花駅・青島駅など)
- 南方駅で行き違いが行えようにする
利用が最も集中する「南宮崎~木花」でこうした改良を行えば、より多くの列車を運転したり、多くの人を車輌に載せたりできるようになる。
また、日南線は現在交通系ICカードには対応していないが、宮崎市がSUGOCA導入に向けたJRに対する補助金の投入を計画しているらしい。こちらは輸送力の向上に寄与する訳ではないが、宮崎駅や木花駅で臨時の切符売り場を設ける必要がなくなり、より少ない人員で増発できるようになるだろう。
鉄道設備が災害に弱い
ところで、宮崎県のJR路線は災害にとても弱い。特に梅雨の時期は酷く、2日に1回は徐行・運休が発生するほどで、都市間輸送としては使い物にならなくなる。
アクセス路線である日南線も、もともと規格の低い私鉄線だったこともあり路盤が非常に弱く、大雨が降るとたいてい徐行、もしくは運休する。土砂崩れの心配が小さい南宮崎~青島ですらよく運休するくらいだ。
また宮崎県は山地が8割を超える県であるため、鉄道は町と町を結ぶ区間で険しい峠越えになることが多い。
日南線の青島以南もそうだし、宮崎~都城、都城、都城~霧島(鹿児島県)、延岡~佐伯(大分県)の各都市間は山が険しく、また地形の関係か雨が激しくなりやすいため、大雨が降ると必ずと言っていいほど運休・徐行する。
特に鹿児島市・大分市という隣県の県庁所在地への移動に関しては、高速バスが休止・廃止されてしまっているためJRがほぼ唯一の交通機関となっている。車を持っている人にとっては関係ないことだが、観光などには大きな影響が出る。
今回のひなたフェスは幸いにも晴れる見込みだが、正直これはかなり幸運なことで、筆者が一番心配していたことだ1。もし大雨が降って日南線が運休になったら目も当てられない事態になっていただろう。
今後こうした大規模イベントを開くのであればいずれはどうにかしないといけない。
ちなみに令和9年、2027年には都城市で国体が開かれる予定で、峠越えの手前にあるJR山之口駅から徒歩圏内に新しい競技場が建設されている。国体の期間中に大雨でJRが運休にならないか、個人的に心配だ。
宮崎市街地での渋滞
前回、フェス会場周辺ではあまり渋滞の心配はないという話をしたが、一つだけ渋滞しないか心配な場所がある。宮崎市街地周辺だ。
会場から宮崎南バイパスに乗って北上すると、高速道路が交わる「宮崎インター」までの間には信号が1つしかない。その信号も赤になる時間は短く、あまり渋滞の心配は大きくないという話をした。
しかし宮崎インターを過ぎてからポツポツと信号が現れ始める。上の図の範囲外になるが「源藤交差点」という交差点を過ぎると、普通の市街地同様に信号が多くなる。
宮崎県の宿泊施設のうち約半分が宮崎市に集中しているらしく、恐らくさらにそのうち半分程度は宮崎市街地にあると思われる。
車社会の宮崎市では、市街地にあるホテルでも駐車場を持っていることが多く、ライブの終演後は車できた観客の中でも市街地のホテルに行く人が多くみられえるだろう。
また、会場から一般道だけを使って日向・延岡などの県北の宿に向かう場合、宮崎市街地の目抜き通り「橘通り」が最短ルートになる。
普段の車の量に加えてこうしたフェス帰りの車が加わることで、市街地での渋滞が発生する可能性も否定できない。
対策として、例えば県北に向かう車を市街地中心部ではなく別の道に伸ばすことなどが挙げられる。
宮崎インターには「一ツ葉有料道路」が伸びており、この道を使うと郊外のみを通って佐土原・西都方面に行くことができる。
普段は有料かつETC使用不可のためあまり使う人が多くない道路だ。
可能かどうかは置いといて、ライブ終了後にこの道路を一時的に無料にして県北に向かう車を誘導すれば、より渋滞のリスクを減らせるだろう。
まとめ
この文章を書いているのは2024年9月6日、つまりは「ひなたフェス2024」前日であり、ギリギリまでシリーズが続いてしまい申し訳ありません。
私もイベント当日の様子を見に行く予定なので、後日にはなりますが動画・またはこのブログで紹介します。
都会から遠く、大規模なイベントに恵まれなかった宮崎県でほぼ初の大型ライブということで、成功することを切に願います。
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