宮崎で大規模イベントは開けるのか? – (2) キンプリ新山口事件

バス

前回は、いかに宮崎県が「陸の孤島」で、大規模イベントに縁がないのかを話した。

(1)「ひなた」の聖地は陸の孤島
https://ikeboichi.blog/255/

そんな宮崎県でアイドルグループ「日向坂46」のライブ開催が決まり、県内の各組織が協力して動いている中、「X(旧ツイッター)」でこんな投稿が流れてきた。

鉄道「有識者」の警告

新幹線のない県で大規模アイドルのコンサートやるのはやめた方がいいって
車両足りなすぎて定期特急列車の増車と4両特急列車の増発しかできないんだよJR九州は。

日向坂46の宮崎フェス、キンプリの新山口事件よりやばいことになるよこれ。

正直、宮崎県出身者として非常に腹が立った。

前回詳しく書かせてもらった通り、
宮崎でここまで大きいライブが開かれること自体、奇跡的なことだ。

そんな県民悲願のイベントに首を突っ込まれるのを見ると、

「弱小県に回ってきたせっかくのチャンスなのに、邪魔しないでくれ!」

というのが正直な感想だ。

田舎の県で大規模イベントなんて開く能力はない、という「勝手なイメージで」そう言っているんだろう。

…そう言いたいところだが、実はそうとも言い切れない。

このアカウント「鉄道時刻表ニュース」は、鉄道に関するダイヤ考察をするWebサイトを運営している。
実は筆者もこのサイトの愛読者であり、もう5年ほど前から毎回欠かさず読んでいる。

投稿内容は主に鉄道のダイヤ改正に関するもので、鉄道の知識に裏打ちされた論理的な考察がされている。

鉄道の運営側がどういった意図でダイヤを設定したのか解説されており、
時折思い込みで書いている節もあるが 読んでいて勉強になることも多い。

通称「キンプリ新山口事件」の概要

なぜ鉄道時刻表ニュース氏が
新幹線のない県で大規模アイドルのコンサートやるのはやめた方がいいって
と言ったのか。

まずは、背景として重要な事件について書いていく。
投稿にもある、通称「キンプリ新山口事件」だ。

会場「山口きらら博記念公園」と新山口駅は、直線距離で10キロほど離れている。

2024年5月22日(水)、アイドルグループ「King & Prince」の5周年を記念したコンサート兼花火の打ち上げイベントが開かれた。

場所は山口県山口市の「きらら博記念公園」。
地方都市で、しかも普通の平日であるにも関わらず3万人もの人が詰めかけ1、イベント自体は大盛況となった。

しかしその後が問題だった。
イベントが終わった後、帰宅する車により一帯で大渋滞が発生してしまったのだ。

同じ山口市内には、新幹線も停まる新山口駅がある。
会場から「普段ならば」20分こどで着く距離なのだが、渋滞により新山口駅へのシャトルバスは大幅に遅れてしまった。

乗るはずだった新幹線に乗ることができず、宿も確保できなかった約1,000人が、新山口駅で一夜を明かすことになってしまった。これが「キンプリ新山口事件」の成り行きだ。

日向坂46 と King & Prince イベントの比較

さて、鉄道時刻表ニュース氏は先のXでの投稿の数日後、自身のWebサイトでより詳細な記事を出している。(https://www.train-times.net/article/jrkyushu202409072

そちらでも、この「キンプリ新山口事件」を引き合いに出したうえで、おおむねこのような主張をしている。

新幹線駅が近くにある山口でのイベントでさえ大渋滞で悲惨な状態を生んだのだから、
新幹線のない宮崎ではもっとひどい事態になるに違いない。」

はたして本当にそうだろうか。

比較のため、山口のキンプリイベントと宮崎の日向坂46イベントとの違いを表にしてみた。

king & Prince(山口)日向坂46(宮崎)
会場最寄り駅JR宇部線 阿知須駅
(客席から徒歩30分)
JR日南線 木花駅
(会場から徒歩12分)
来客数約3万人最大2万4千人(推定)
駐車可能台数6000台以上?2,800台
・場内8,992台1,500台
・場外おそらく無し1,300台
終演時刻20:30 頃19:30 頃

ひなたフェス2024の来客数については筆者の想定だ。

野球場の公式収容人員は30,000人。3
実際にはステージや準備用スペースも必要なので全て使用できるという訳ではない。全体の80%が使用できると仮定し、24,000人とした。

宮崎のフェスは、どんなにお客さんが集まったとしても約24,000人
対して山口のイベントは報道によると約30,000人が集まったという。

2万4千人というのはあくまで最大値だ。
詳しくは別の回で述べるが、ホテルが足りないせいでライブのチケットはまだまだ売れ残っているらしく、実際の来客は2万人弱になるのではないかと思う。

山口と宮崎で、そもそもの観客の数が違うということが判った。


山口市は大都会の広島都市圏から車で2時間と、十分日帰りできる距離だ。
そうした立地もあり、キンプリのイベントには多くの人が集まったのだろう。

近いのは、どちらもローカル線

また、山口の会場となった「きらら博記念公園」の最寄り駅は、実は新山口駅ではない。花火の客席から徒歩30分ほどのところにある、宇部うべ線の阿知須あじすだ。

JR宇部線が、会場最寄りの阿知須駅と新山口駅の間を結んでいる。

宇部線は新山口駅から延びている路線で、いわゆる「ローカル線」とされる。新山口~阿知須の所要時間は15~20分だ。

対して宮崎の方の最寄りとなる日南にちなん線・木花きばなは、会場から徒歩12分ほどで行ける。
日南線も「ローカル線」とされることが一般的で、起点の南宮崎駅までは列車で15分ほどだ。

会場「ひなたサンマリンスタジアム」から木花駅までは徒歩10~15分。JR日南線が南宮崎駅または宮崎駅まで結んでいる。

会場からの距離は違えど、どちらもいわゆるローカル線かつ交通系ICカードが使えず(!?)、乗り換えの拠点となる駅までの所要時間もほとんど同じだ。

鉄道は車と違い、渋滞することはない。
渋滞しやすい場所でも移動時間の予測が立てやすいというメリットがある。

会場から新山口駅までシャトルバスで移動するのではなく、阿知須駅まで歩いて電車に乗ればいいではないか。そう思う読者も多いだろう。

しかし、事はそう簡単ではない

次回は、山口と宮崎、それぞれでの鉄道輸送について説明する。

(3) JR での観客輸送 - キンプリ山口イベントでの場合
https://ikeboichi.blog/303/
「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」付近の津波避難所
https://ikeboichi.blog/294/

注釈

  1. 出典:King & Princeファンの一部 イベント後 終電乗り遅れ駅で一夜
  2. 交通事情のほか、アイドル事情などについての考察も多くなされている。思い込みで書いているところもけっこうあると思うが、面白いので興味があれば読んでほしい
  3. 出典:ひなたサンマリンスタジアム宮崎公式Webサイト 施設概要・沿革

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