宮崎で大規模イベントは開けるのか? – (3) JR での観客輸送 – キンプリ山口イベントでの場合

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前回は、悲惨な事態になった通称「キンプリ新山口事件」について話した。
また、山口と宮崎の各イベントの情報を洗い出した。

前回:宮崎で大規模イベントは開けるのか? – (2) キンプリ新山口事件
https://ikeboichi.blog/269/

終演時間 から JR終電 まで

山口のキンプリのイベントで、「事件」になってしまった最も大きな原因は「イベントの終演時間」だ。

公式サイト1によると、花火のイベントが終わったのは20:30頃らしい。

遠方から来た場合、イベントに来るうえで山口市内に宿を取れるに越したことはないが、そんな便利な立地のホテルはすぐに予約が埋まってしまったはずだ。

県内の他の自治体や、ホテルの多い広島市・北九州市・福岡市などの遠方に宿を取った人も多いだろう。

山口県内の他の都市へ向かうJR在来線の終電時刻(新山口駅基準)は、以下のようになっている。

柳井:21:48
下関:22:43
下松:22:45
山口:23:33

さらに遠く、お隣の広島県や福岡県のホテルを予約した人や、それら県に自宅がある人については、新幹線を使うことになる。
その場合の新山口駅発の終電時刻は以下の通りだ。

新大阪行き:21:27
福山行き :22:16
熊本行き :22:23
広島行き :22:27
博多行き :22:34

終演は20:30頃で、客席からシャトルバス乗り場までは徒歩15分ほどだった。
そこから25分ほどバスに乗ることを考えれば、理論上は40分で新山口駅に着けることになる。

もちろん、終演後の混雑や「多少の」道路渋滞を考えると、更に1時間半ほど余裕時間は確保したい。

余裕時間も合わせると、会場から新山口駅までの移動時間は2時間ほどになる。

それだけの時間があれば、新山口駅で在来線の下関・下松・山口行き、新幹線だと熊本・広島・博多行きに乗り継ぐのは「よほどのことがない限り」可能に思える。

イベント当日に起きた事態

しかし当日は「よほどのこと」が何個も起きてしまったようだ。

当日の様子をX(旧ツイッター)で調べたことを話すので、正確性に欠ける場合があるかもしれないがご容赦いただきたい。

まず、開園時間は18:30となっていたが、実際には15分ほど遅れて始まったらしい。しかしこれについては、公式サイトにて「予定通り20:30に終演した」と書かれており、あまり影響しなかったかもしれない。

また、開演時間はもともと30分早く、のちに18:30開始に繰り下げられたという情報もあった。もしこれが本当であれば、20時前には終演するつもりで移動の計画を練ったり、宿の予約をした人もいただろう。

加えて、終演後に付近で交通事故が発生したという情報もあり、これにより渋滞が深刻化した可能性もある。詳しくは別の回で述べたい。

当日は、車で来た人を含めた3万人前後が20:30前後に一斉にシャトルバス・駐車場方面に動いたわけで、バス乗り場に辿り着くだけでも一苦労だったという。

バスに乗ってからも渋滞によりバスは大幅に遅れた。
シャトルバスは終演後に複数便が随時運転されたが、まともに運転できたのは最初の数本のみ。2
便によっては4時間もの遅れになったという。

X(旧ツイッター)で集めた情報がどこまで正確かは分からない。
しかしこの感じだと新幹線はおろか、23:33発山口行き在来線最終にも乗れず、市内のホテルにすらたどり着けなかった人がいてもおかしくはない。3

渋滞に関する注意喚起は、公式サイトでも行われていた。4

  • 開演時間は予定です、シャトルバス等の遅れ・駐車場の混雑等が発生した場合は開演が遅れる場合があります。
  • 公演終了後のシャトルバス乗車には混雑により、最後のお客様が乗車されるまで3時間程度の時間を要することが予想されます。
  • 新幹線等の希望される時間の交通機関に間に合わない可能性がありますので予めご了承ください。

もちろん、ほとんどの人は移動の計画を立てる際にある程度余裕の時間を設けるだろう。
しかしその余裕も、長くても1~2時間といったところ。それ以上時間に余裕を見ようとすると、(特に遠方から来た人にとっては)宿の選択肢が大幅に狭まってしまい「行かない」という選択肢も入ってきてしまう。

また、注意事項として「最後のお客様がシャトルバスに乗り込むまで3時間かかる場合もある」と記載がある。

確かにここだけを見ると「ちゃんと注意喚起をしているな」と感じる。

しかし、会場を少し早めに出た人ですら、新山口駅での終電に乗り遅れている5ことを考えると、注意喚起を読んだ人も新山口駅での終電に間に合わないくらいの渋滞だったのだろう。

さすがにバスの遅れが2時間を超える渋滞に巻き込まれるというのは、ほとんどの人にとって「想定外」だっただろう。

JR宇部線「阿知須駅」の利用

では前回紹介した、会場の最寄りであるJR宇部線の「阿知須あじす」を使うのはどうだろうか。

鉄道は車と違い、渋滞はない。ゆえに移動の計画が立てやすいというのが大きなメリットになっているが、それはあくまで「乗れれば」の話だ。

当日の阿知須駅から新山口駅へ、列車がどれくらい運転されたのか見てみよう。

阿知須発○○への最終列車
臨時20:54新大阪
21:15柳井
臨時21:43福山・広島・熊本
22:02博多・下関・下松
臨時22:26山口

「臨時」とあるのは、お客さんが多いことを見越してJR西日本がこの日だけ増発した列車だ。

そして「○○への最終列車」列に書いてあるのは、「この列車に乗れば新山口駅で○○行きの列車(終電)に乗り継げる」ことを表している。

設備上、宇部線は都会の鉄道と比べると電車の本数を増やすのが難しい6

そんな中でも、運行会社のJR西日本はおおよそ25分に1本の電車を運転してくれていた。
宇部線のようなローカル線としてはかなり多い本数で、おそらくこれ以上増発することはできなかっただろう

しかし、列車は通常2輌しかなく、どんなに長くても設備上4輌が限界だ

X(旧ツイッター)で当時の状況を調べたが、何輌編成で運転されたのかは判らなかったが、
運転された5本を合わせた輸送力は、2、3千人だったと推定される。7

つまり、宇部線を活用すれば、新山口駅まで2,3千人を運ぶことができたのだ。

そして、シャトルバスや鉄道を使って会場まで来た人は、どんなに少なく見積もっても4千人はいたと当チャンネルでは推測する。8

シャトルバスといっても全てが新山口駅行きだったわけではなく、福岡や広島へ向かう便や提携ホテル直行便9もあった。

そのため「終電時刻を気にする必要がある人たち」はもう少し少なかっただろうが、それでも宇部線で運べるかどうか、かなり際どい人数になる。

しかも、当日の阿知須駅は電車に乗るための長蛇の列ができていたそうで、駅に辿り着いてもすぐに電車に乗れる訳ではなかった。

山口市内にホテルを取った人ならいいが、例えば広島市内に宿を取った人は、新幹線の終電に乗るために阿知須駅21:43発の電車に乗る必要があった。

会場から駅までは徒歩約30分。混んでいた当日は50分近くかかっても不思議ではない。

そして駅についても、他の乗客が数千人単位で列を成している。
自分が乗らなければいけない便の発時刻までにホームに立てない可能性が十分あっただろう。

こう考えてみると、会場に集まれる人数に対して終演時刻が遅すぎたのではないか?と思える。
終演時刻がもう1時間早ければ、より多くの人が「各自の終電時刻」までに電車に乗れただろう。

交通機関との調整は大事

また、宇部線以外のJR各線で終電後の増便が無かったことも問題ではないかと思う。

新山口駅の時刻表を見ると、新幹線・在来線共に終電は多くが22時台に設定されている。
これよりもさらに遅い時間に臨時列車を増発できていれば、多くの人が遅れたシャトルバスから乗り継ぐことができたかもしれない。10

多少の渋滞が起こることをあらかじめ見越して、主催者側が事前にJR側と臨時列車の調整をしておくべきだったと思う。11

ところで、「King & Prince と打ち上げ花火」の公式ウェブサイトでは、JR宇部線の列車が増発されることは一切告知されていなかったようだ。
これはかなり驚くべきことだ。

宇部線に関する情報自体もかなり少なく、筆者が見た限りだと、「交通系ICカードが使えないので注意してください」という記載しかなかった。

列車の増発が公式ウェブサイトで知らされていなかったのは、群衆事故と詰め残し防止の意味合いが大きいだろう。

大人数が集まるところでは群衆事故の危険性が十分にあるのは確かだ。しかしそれはしっかりと人流を整理し、人が殺到しないようにすれば防げる。

ところで、こういった大人数が1か所に集まるイベントは、スマホの通信が集中するためネットにつながりにくくなることが多い。12
おそらく当日も同じような状況になっただろう。

渋滞の進まなさを見たシャトルバス勢が、乗る前から諦めて別の移動手段を探そうにも、人が集中し通信が極めて遅くなった現場では調べようもなかったという可能性もある。13

もし事前に公式ウェブサイトなどでJRを積極的に案内していれば、シャトルバスではなくJRを選ぶことができる人が増え、新幹線や在来線の終電を逃してしまう人を多少は少なくできたかもしれない。しかし先述のように、それでも同様の状況に陥る人が少なからず出ていただろう。

宮崎でも同じことにならないのか

当日の状況や、JRに関する公式ウェブサイトでの情報が少ないのを見るに、主催者側とJR西日本との調整がうまくなされていなかったという感は否めない。

・終演時間が遅く、新山口駅発の終電まで時間に余裕が無かった。
・渋滞発生によりシャトルバスが大幅に遅れた。
・JR宇部線関連の情報提供がほとんど無かった
・JR西日本側の増発が不十分だった(主催者側との調整がうまくいっていなかった?)

こうした理由により、新山口駅で帰宅難民が約1,000人も出る結果になってしまったと考えられる。14
全般的に見て、主催者側で人流への対策が不十分という印象を強く受けた。

では、宮崎で開催予定の「ひなたフェス2024」では、同じような事態は起きないのだろうか。

会場となる「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」は、キンプリ新山口事件の舞台となった「きらら博記念公園」と立地が似ている。

公共交通でのアクセスでみれば、県の交通拠点から車・バスともに20分ほどで、最寄り駅はローカル線の小さな駅だ。

しかし、「King & Prince と打ち上げ花火」と比較して、「ひなたフェス2024」では大きく違う点がいくつもある

次回は主にJRでの輸送について、その次の回ではシャトルバスや渋滞について考察していくその次の回は、また別のことをやる予定です。引き続きよろしくお願いします。

宮崎で大規模イベントは開けるのか? - (4) JR での観客輸送 - 宮崎「ひなたフェス2024」の場合
https://ikeboichi.blog/310/

注釈

  1. 出典:King & Princeとうちあげ花火
  2. これに乗るためには、 King & Prince の最後の一曲をあきらめて早めに会場を後にする必要があったらしい
  3. 新山口駅のタクシーも全て出払ってしまっていたらしい
  4. 出典:https://www.kingandprince5th.jp/fireworks2024/index.html#Location
  5. 乗り遅れたのが約1,000人で、一般的な貸切バスの定員が35人程度であることを考えると、単純計算でシャトルバス最終便の28便以上前の便に乗らないと終電に間に合わなかったということになる。それを「注意喚起を読まなかった本人のせい」にするのはあまりにも無理がある
  6. 駅間に線路が1本しかなく、双方向の列車が駅で行き違いを行う「単線」で運転するため
  7. 2輌編成の定員は300人、4輌は600人で計算
  8. 詳しい根拠は別の回で述べる
  9. いずれもイベントチケットとセット販売
  10. 例えば、23:30分頃にホテル集積地である広島への新幹線があれば、かなりの人が予約したホテルに辿り着けただろう
  11. もちろん、交渉はしたがJR側の都合で増発ができなかった可能性もある
  12. といっても、通信各社と協力して基地局を増設し、ネットに繋がりやすくしてくれることも多い
  13. ウェブサイトに臨時列車の情報を載せなかったくらいなので、駅への道を示す看板なども特に無かったかもしれない。
  14. なぜ渋滞が起きたのかについては、後日詳しく考察します。

コメント

  1. 西の旅人 より:

    山口県の会場周辺の地元民です。私も鉄道ファンであり、大規模イベントと交通インフラの関係にとても興味があり、個人的に調べたりする変人です笑
    とても丁寧で多面的な考察をされていて素晴らしいと思いました。私も事故の件を聞き、警察署の事故履歴がないか見てみたら特にそのような記載が無かったので、恐らく事故は無かったのではないかと考えています。

    宇部線は最大4両が入りますが、日南線と同じ車掌乗務の制約から普段は2両編成で運行されています。そして、日南線と違うのは、JR宇部線では当日も2両編成を崩さなかったところでしょうか。JR九州とJR西日本の商魂の差がここで発生しています。つまり、実質的な一編成当たりの輸送力は3両の快速が走った分日南線の方が多かったのです。
    また、宇部線から山陽線、新幹線の乗り継ぎに関しては接続待ちを行っていましたが、バスからの乗客を待つ義理はさすがになかったのでしょうね、そのまま終電も出て行ってしまいましたね。そして、JRはコメントで、新幹線の増発はする気が無いので、各自間に合うように向かえって言う内容だったのもなんだかなあって思う所です。

    宇部線は確かに増発しましたが、全くキャパオーバーです。JRもそれをよくわかっているからこそ、主催者側にJRのアナウンスをしないようにわざわざ要請しているのです。つまり、JRとイベント主催者の連携の結果、宇部線の告知無しという事になっているのです。それでも、一部の人は宇部線が渋滞しないし安い事を知っているので、最寄りとなる阿知須駅にはけっこうたくさんの利用者が押し寄せてきます。

    主催者側も、キンプリの以前から、ワイルドバンチなどでバス代行の実績があるため、今回も同じ流れで実施したのだと思います。

    • ikeboichi より:

      西の旅人さん
      返信が遅くなりすみませんm(__)m
      警察の事故履歴まで調べたんですか!凄いです!
      事故は無かったとなると、単純に道路のキャパにイベントの規模が追い付いていなかったんですね…

      宇部線、2両編成だったんですか!
      宇部線や新幹線、シャトルバスの対応を見てみると、もう帰宅難民が発生しても止む無しという考えでイベントを実行していたように思えてしまいます。

      • 西の旅人 より:

        道路渋滞の件については、阿知須の会場から新山口駅まで直通の湾岸県道、国道190号線、山口宇部自動車道の3ルートが考えられますが、当日のGoogleマップの道路混雑モードによると、当時国道190号だけが最高レベルの混雑度だったのに対し、阿知須~新山口の湾岸県道はまさかの緑線。実際に湾岸県道を利用した知人によるとスイスイ進んだそうですよ。

        個人調べでシャトルバスに動員されたバス会社は51社。最低51台体制での運行でした。
        中には現地の道路事情を知らないバス会社もあったのでしょうね。またバスは容易にルート変更をするわけにはいかないので、渋滞しているのを承知で国道190号線に突っ込んでいったのではないかと推測しています。

        個人の試算ですが、当時キンプリのライブに参加した人の中で、公共の交通機関で新山口方面に帰らなければならない人がおよそ1万9千人いたと推測しています。道路が一切混んでなければ会場から新山口駅まで20分程度です。45人乗りのバスが51台で輸送したとして、8往復しなければ全員を運びきれない。21時終了から計算すれば最後の人が新山口に着くころには、早朝4時になってしまいます。

        そんな人数をバスだけで運ぶのはそもそも無謀だったといえるでしょう。

        宇部線は2両編成基本で、地元の花火大会や秋祭りでさえ増結しませんでした。JR西の「めんどくさい事は絶対やりたくない」という鋼の意志を感じます。

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