前回は、「キンプリ新山口事件」の原因について、イベントの時刻や鉄道輸送に関して考察した。
前回:宮崎で大規模イベントは開けるのか? – (3) JR での観客輸送 – キンプリ山口イベントでの場合
https://ikeboichi.blog/303/
主な理由として以下を挙げた。
・終演時間が遅く、新山口駅発の終電まで時間に余裕が無かった。
・渋滞発生によりシャトルバスが大幅に遅れた。
・JR宇部線関連の情報提供がほとんど無かった
・JR西日本側の増発が不十分だった(主催者側との調整がうまくいっていなかった?)
・公園周辺が、渋滞を引き起こす道路構造だった(後日述べます)。
山口のキンプリのイベントを踏まえて、宮崎で行われる「ひなたフェス2024」ではどのような対応が採られるのかを見ていこう。
終演時刻と終電
「ひなたフェス2024」自体は朝10時から始まり、日向坂46関連のグッズ販売やメンバーのパレードなどが開かれる。
しかしメインイベントは17時開演のライブであり、今回はこのライブ終了後の人の流れを取り上げる。
ライブの終演予定は19時半だ。山口の「King & Prince と打ち上げ花火」の終演は20:30頃だったので、それよりも1時間早い。
では終演後のJRの列車時刻を見ていこう。
山口のイベントでは、乗り換え拠点である新山口駅までの移動手段としてシャトルバスが推奨されていた。
宮崎でもシャトルバスは走る。
列車への乗り換え拠点である南宮崎駅1や宮崎駅にも停まるが、このバスは主に宮崎市街地に移動したい人向けだ。鉄道への乗り換えとしては会場近くから直接JRに乗った方が便利だろう。
会場の最寄り駅は、徒歩12分のところにあるJR日南線の木花駅だ。
会場から県内各地へと向かう場合、まずは木花駅からJR日南線で北上し、南宮崎駅から各方面への列車に乗り継ぐことになる。
各地へと向かう終電の時刻は以下のようになる(時刻は木花駅基準)。
延岡:22:10頃
鹿児島中央:22:10頃
都城:22:40頃
日南(南郷):22:40頃
宮崎:23:10頃
時刻 | 主な到達可能駅 |
22:10頃 | 日向市・延岡 |
22:10頃 | 国分・鹿児島中央 |
22:40頃 | 都城 |
22:40頃 | 日南・南郷 |
23:30頃 | 南宮崎 |
木花駅の時刻表がまだ発表されていないので、おおよその発時刻を示している。2
こうしてみると、前回述べた山口の会場最寄り駅・阿知須駅での時刻とほぼ同じか、更に遅くなっている。
また、終演してから最寄り駅で列車に乗り込むまで、猶予時間が軒並み2時間30分以上ある。
山口のキンプリのイベントの場合は、方面にもよるが1時間~1時間半ほどしかなかった。ひなたフェス2024の終演時間の方が1時間早いのが大いに活きている。
加えて、会場から最寄り駅までの距離も違う。
山口のイベント会場から最寄りのJR阿知須駅までは徒歩30分あったのに対し、こちらは木花駅まで徒歩12分だ。
イベントで疲れた体で30分(人ごみの中歩くのでたぶん40分以上かかる)歩くのはハードルが高い。鉄道も選択肢に入れていたが、疲れるので結局シャトルバスを選んだ、という人も多いだろう。
対して徒歩12分という距離は、普段から歩く習慣のある大都市から来た観客にとっては大したことはない。ライブで疲れていても十分許容できる距離のため、多くの人がJRを選ぶだろう。3
気合の入った運転本数
山口のJR宇部線と同様、木花駅が属するJR日南線もいわゆる「ローカル線」だ。
普段は1時間に1本程度しか列車がない。増発をしようにも、都会と比べて設備が多くないので限界があるし、輌数も普段は1輌か2輌、どんなに頑張っても3輌編成が限界だ。
しかしそんな中、JR九州は20分間隔、終演後に合計12本の列車を運転すると発表した。4
これは通常の3倍以上の本数だ。
これ自体はJR西日本の宇部線でも近いことが行われ、おおむね25分おきの運転をしていた。
しかしJR九州は気合の入れ方が違う。
宇部線では、普段から走っている「定期列車」の時刻は変えず、そのダイヤの隙間に臨時列車を差し込む形で運転された。
しかし日南線では、おそらく定期列車のダイヤも大幅に変更した「特別ダイヤ」で運転される。5 6
8/23(金)に発表された日南線の臨時列車ダイヤによると、こちらでの予想とは異なり、定期列車の時刻は維持されます。
JR九州のプレスリリースでは20分間隔と発表されていましたが、実際には6分~30分の不定間隔で12本が運転され、平均して17.5分間隔となっています。
予想は外れてしまいましたが、良い方向に期待を裏切られたのは嬉しい限りであると同時に、「どうすればこんな本数を運転できるんだろう?」と疑問符が沸いているところです(これからダイヤを分析します)
JR日南線のような貧弱な設備でこれだけの本数を運転するのは非常に難しく、JR九州宮崎支社の担当者の方の努力がダイヤにじみ出ています。
通常、定期列車の時刻を変えるのはハードルが高い。
各駅の時刻表を変えたり、乗換案内アプリの運営会社など各方面への連絡が必要になる。時刻変更を知らなかった普段使いの利用者から苦情を受けるかもしれない。7 8
そこまでしてJRが列車の本数を増やしたのは、JR九州宮崎支社とイベント主催者双方の「絶対に成功させたい」という想いがあってのことだろう。
しかし、これだけ大幅に増発したとはいえ、運べる数は「せいぜい」4,000人しかいない。
日南線は長くても3輌編成が限界であり、山口の宇部線よりも輸送力が低い。
輸送力4,000人というのは、首都圏のJR東海道線15輌編成でいうと1.7本程度、京阪神を走る新快速電車12輌編成でいうと2.4本程度の輸送力しかない。9人によっては「意外と少ないな」と感じるだろう。
果たして、公共交通でライブに来た人を捌き切ることができるのだろうか。
観客はどうやって会場に移動するのか
一旦比較のため、山口の「King & Prince と打ち上げ花火」に話を戻そう。
会場となった「きらら博記念公園」はかなりの広さで、駐車場台数は9,000台近くある。駐車場の一部はシャトルバスの発着場などに使われたため、実際に駐車場に停まった車は、かなり多く見積もって8,000台と仮定する。
花火の打ち上げがあるため、男性アイドルに興味がないような地元の家族連れなども車で多く訪れたと考えて、1台当たりの平均人数は少し多めの3.2人ほどと仮定する。そうすると、
3.2人 × 8,000台 = 25,600人
来客者は約3万人と報道されていたので、バスや鉄道などの公共交通を使っていた人は4,400人となる。
つまり山口のイベントでは、少なく見積もっても4,400人もの人を鉄道あるいはシャトルバスでさばく必要があったのだ。
宮崎の「ひなたフェス2024」の場合、駐車場は場内・場外合わせて2,800台10と遥かに少ない。
女性アイドルグループのため家族を伴ってまで来る人は少ないと考えて、1台当たりの人数は2.5人と仮定すると、
2,800台 × 2.5人 = 7,000人
車で来る人は、山口のイベントよりも遥かに少ない約7,000人と推定できた。
これ以外の人は公共交通機関で移動するのかと言うと、そういう訳でもない。貸切バスで直接会場まで乗り付ける人もいるからだ。
「ひなたフェス2024」では、飛行機やホテルなどとライブチケットが一纏めになったセットツアーがあり、多くのプランが用意されている。その中でも、以下の2つのツアーでは会場との往復を貸し切りバスで行う。
- 九州内各地からの貸し切りバス日帰りツアー
- 鹿児島空港発着 貸し切りバス付鹿児島市内ホテル1泊ツアー
1個目のツアーには、イベント当日に九州各地11から貸し切りバスで直接会場に乗りつけ、ライブ後に会場から各地に戻るという弾丸日帰りツアーだ。
2個目は鹿児島空港を利用するツアーだ。羽田、中部、伊丹の各空港から鹿児島空港までの飛行機と、鹿児島市内のホテル、それから会場~空港・ホテルの貸し切りバスがセットになっている。12
各ツアーには、発着時間などに応じてさらに細かくプランが分かれており、合計で32プランある。これら1つ1つの利用者を45人13と仮定して計算すると、
45人 × 32プラン = 1,440人
が貸し切りバスで会場入りすると推測できる。
自家用車で来る人は約7千人、貸し切りバスで来る人は約1,500人とわかった。
本当に運びきれる?
既に前々回書いているが、ライブ会場の定員は2万4千人と推測した。
もしライブが満員御礼になれば、そのうち公共交通でアクセスする人は
24,000人 – 7,000人 – 1,500人 = 15,500人
と、かなりの数になる。
対して日南線の輸送力は4,000人しかなく、終演後に宮崎市街地まで運転されるシャトルバスと合わせても、公共交通だけではとうてい運びきれない。
「ひなたフェス2024」では、公共交通が貧弱なせいで会場周辺から脱出できない「帰宅難民」が大発生してしまうのだろうか。
宮崎での大規模フェスは「失敗」してしまうのだろうか。
… 筆者も最初はそう思ったのだが、一つ重要なことが頭から抜けていた。
次回、その「重要なこと」についてアプローチしていく。
次回
宮崎で大規模イベントは開けるのか? - (5) 「新幹線がない」から成功する訳
注釈
- 駅から徒歩4分の「宮交シティ」に停まる
- 南宮崎駅での乗り継ぎ時間にはかなり余裕を持たせている
- JRが、シャトルバスと比べて半額ほどで南宮崎駅まで行けるというのも大きい
- 「ひなたフェス 2024」にあわせ臨時列車運転!!
- 当日のダイヤがどうなるのか、通常時のダイヤを基に検討してみたところ、定期列車の時刻も変えない限り20分間隔・終演後12本の運転は不可能だと判った。
- 仮に定期列車の時刻を変えない場合、10本しか運転できないと思われる。
- また、輸送力4,000人、終演後に12本運転という情報から考えると、終演後の木花〜南宮崎は全ての列車が3輌編成になると考えられる。しかし木花以南の全列車を3輌にすると車輌も車掌も足りない為、折り返しができる青島を境に南が1または2輌、北が3輌になり、乗客は青島駅で乗り換えが必要になると思われる。普段使いの乗客に慣れない乗り換えを強いてまで増発することからも、JR九州宮崎支社の覚悟が感じられる。
- 3輌編成は車掌乗務が必要なことから、南宮崎〜青島では運転士・車掌合わせて6名以上の増員が必要だ。更に南宮崎〜宮崎でも臨時列車が1運用分増えるので運転士が1名必要になる。加えて木花駅や南宮崎駅で案内係を何人も派遣することを考えると、かなりの人員を今回のひなたフェス輸送に割くことになる(これは多くのシャトルバスを運転する宮崎交通も同じだ)
- 4,000人を、運転される列車の定員数の合計とみなした場合
- https://www.hinatazaka46.com/s/official/page/hinata_fes2024_access?ima=0000
- 福岡、北九州、大分、佐世保、長崎、佐賀、熊本、鹿児島
- もちろん宮崎空港発着のツアーもあるが、こちらは貸し切りバスはなく、空港・ホテル~会場の移動は自力で行わなければならない。
- 一般的な貸し切りバス1台の定員45人で計算しているが、複数台使うプランもあると思われるため、実数はさらに多いと思う。
コメント
霧島さん初コメントです、
25000人ぐらいでは大丈夫でしょう。
去年WBC合宿より多かったあのイチロー・松坂が来た2009年を経験してますから。
(その関係で去年はスタジアム入場は整理券制で駐車場も予約のみ)
コメントありがとうございます!
WBC合宿は日中のイベントで、来場者が出入りする時間もマチマチでしたが、今回は夜19:30に一斉にスタジアムから人が吐き出されるんですよ。人の移動に関してはWBCと大きく違うので心配です。