前回は、宿泊施設の収容人数に基づいて、「ひなたフェス2024」ライブ後にどれくらいの人が公共交通を使うのか考察した。
- 宿泊施設の収容人数は1万8千人ほどしかなく、ライブ会場「ひなたサンマリンスタジアム宮崎」の定員が埋まることはほぼ有り得ない。
- 「駅近」にある宿泊施設の数が少ないため、公共交通を使う人も少ない。
- JR日南線・南宮崎方面を使う人は4,930人と推定され、どうにか運びきれる。
- もし新幹線があったら、会場→新幹線駅の交通手段がパンクしてしまっていただろう。
前回
(5) 「新幹線がない」から成功する訳
今回は、会場周辺の道路事情を「キンプリ新山口事件」と比較することで、渋滞が起こらないのか、シャトルバスは問題なく運行できるのかを考察していく。
通称「キンプリ新山口事件」会場周辺の道路事情
このシリーズの第2回「宮崎で大規模イベントは開けるのか? – (2) キンプリ新山口事件」にて、渋滞によりシャトルバスが遅れ、およそ1,000人がJR新山口駅で夜を明かしたという話をした。
会場となった「きらら博記念公園」は、最寄り駅から徒歩30分近く離れていることもあり、新山口駅行きのシャトルバスが(車利用者以外の)移動の中心となっていた。
会場から新山口駅まで、通常だったら25分ほどで移動できる。しかし渋滞は非常に激しく、便によっては4時間近くの遅れが生じたらしい。
なぜそこまでの渋滞が発生したのか。
会場近くの道路で事故があったという情報もあり、こればかりはしょうがない。
しかし、会場近くの道路事情をつぶさに見ていくと、そもそも道路の構造に根本的な問題があったのではないかと考えるに至った。
前提として、私は会場周辺に行ったことは一切なく、これから書くきらら博記念公演周辺の道路事情は衛生写真、Google ストリートビューに基づくものの、あくまで推測でしかないのでご理解頂きたい。
会場となったきらら博記念公園周辺の衛星画像だ。山口県は工業が盛んなだけあって、高速道路を含めた自動車専用道路(以降、一括して「バイパス」と呼ぶことにする)が何本も通っている。
これだけ立派な道路事情を見ると、少し大きなイベントがあったところで大渋滞するようには見えない。
しかし、道路の構造をつぶさに見てみると、バイパスよりもそれと接続する一般道の方に問題があるように思う。
会場からの出口がどこだったのかは調べても判らなかったが、会場の地図から判断しておそらく一箇所のみ。そこから直進すれば山口宇部道路、右折すれば小郡阿知須道路というバイパスに乗ることができる。新山口駅への最短距離は小郡阿知須道路であるため、シャトルバスもそちらを通ったと思われる。
小郡阿知須道路に乗るには、会場出口で右折したのち直進すればいい。
しかしそもそも、会場出口の右折車線は1本のみで、そこまで長くない。右折車は、会場を出るだけで数十分単位の時間がかかったことだろう。
また、一般道から小郡阿知須道路に入る際、片側2車線から1車線に細くなる。
これ自体は問題ない1。しかし問題はその先で、バイパスの終端、新山口駅の少し南にある交通センター前交差点に信号があり、そこから先は新山口駅周辺の市街地だ。
近くには大型の商業施設も幾つかあることもあり、この交差点より先では一般の車も多くなるため交通量も増えると思われる。
イベントが終わり、最初の車が会場から出てくる頃はまだいいが、時間が進み、小郡阿知須道路から新山口駅周辺に吐き出される車が増えるにつれて車の流れも遅くなり、次から次へとやって来る車が列を成していただろう。
では別の有料道路へ向かう場合はどうだろうか。
会場出口で直進してしばらく一般道を進むと、山口宇部道路の阿知須インターチェンジに着く。山口宇部道路は片側2車線であり、多少多くの車が来ても問題ないように見える。
阿知須インターから北に2区間進んだ嘉川インターからは「小郡道路」という別のバイパスが延びており、山陽道で周南・広島方面に抜けるのに便利だ。
会場出口には、直進できる車線が2本ある(うち1本は左折車と共用)。そこから1kmほどは片側2車線が続いており、ここまでは問題ない。
しかし、途中2から阿知須インター入口まで、なんと約3kmも片側1車線が続いているのだ。しかもその間、信号が4か所もあるため、渋滞は必至だろう。
せっかく立派なバイパスが周囲にあるのに、一般道が貧弱なため十分にそれを活かしきれていないように見える。
加えて「きらら博記念公園」は広大な駐車場があり、今回取り上げた「King & Prince と打ち上げ花火」では推定6,000台以上の車が詰めかけたが、これだけ台数がいればそもそも会場から車を出すだけでも相当の時間がかかったことは想像に難くない(シャトルバスも、会場を出るまでかなり時間がかかったらしい)。
「きらら博記念公園」での大規模イベントは、もはや大渋滞が起こることを前提として行われているようだ。
「ひなた宮崎県総合運動公園」周辺の道路事情がスゴかった
では、今回「ひなたフェス2024」が開催される「ひなた宮崎県総合運動公園」周辺の道路はどうだろうか。
会場から、宮崎市街地方面などへ向かう主要な道を色付けした。
会場出口のすぐ南にある「熊野交差点」から北に向かって、「宮崎南バイパス」が市街地方面に延びている。
この宮崎南バイパスは全線が片側2車線以上であり、高速道路の出入口「宮崎インターチェンジ」を経て宮崎市街地中心部へと繋がっている。
会場付近のバイパス出入口から宮崎インターまでは約8kmあるが、この間に信号はたった1か所しかない。この道路は数えきれないくらい通ってきたが、経験上信号が赤になる頻度はかなり少なく、また赤の時間も1分未満だ3。
宮崎インターで県北や都城・鹿児島県方面へ向かう車が分散することを考えると、宮崎南バイパスに乗ってさえしまえば車はかなりスムーズに進むと想定できるのだ。
では、フェス会場の駐車場からバイパスに入るまではどうか。
おそらくフェス当日は「宮崎県総合運動公園北口」という交差点から来場客の車の出入りが行われる(ひょっとしたら更に北側の出入口も使われるかもしれない)。
会場至近の画像を見ての通り、「ひなた宮崎県総合運動公園」の一般車出入口は、この宮崎南バイパスのインターから目と鼻の先にあることが判る。
会場出入口を左折すると先述の「熊野交差点」があり、ここで右折するとバイパスに乗れる。加えて会場出入口を右折しても、同じく宮崎南バイパスのインターがある。
つまり左折・右折のどちらでも、すぐにバイパス(宮崎IC、宮崎市街地方面)に乗ることができるのだ。
「きらら博記念公園」では、会場とバイパスの間の一般道の車線が少ないという問題があったが、「ひなた宮崎県総合運動公園」ではどうだろうか。
会場を出て、宮崎南バイパスを宮崎IC、市街地方面に進む車について考えてみよう。
手書きで恐縮だが、「宮崎県総合運動公園北口」交差点を中心とした道路の車線を図にしてみた。
まずは会場出口で右折する側から。会場出口の右折車線は、赤矢印が書かれた1本のみだ。宮崎県総合運動公園北口交差点には信号があり、青になっている間に約18台が右折できる4。
右折してすぐのところに、宮崎南バイパスの入口の信号機があるが、ここの右折車線はしっかり2車線確保されており、約70メートルの長さがある。
信号待ち中の1台当たりが占める空間の長さを8メートルとすると、 70m × 2車線 ÷ 8m = 17.5台となり、会場出口を右折してきた車はほとんど納まる設計だ。
その信号が青になって、右折した車はランプを上りバイパスの本線に合流する。本線に入る直前に一瞬だけ1車線になる箇所があるが、少し減速する程度で済むだろう。
次に、会場出口「宮崎県総合運動公園北口」交差点で左折する場合も見てみよう。
こちらの左折レーンは2車線あり、青信号の間に約36台の車が左折できる5。左折した先の道路は片側2車線となっており、各車線はそのまま約220メートル先の熊野交差点の左折車線(青島・日南方面)、右折車線(宮崎南バイパス宮崎IC方面)になっている。
先ほどと同様に考えると、熊野交差点の右折車線には約28台の車が収まることができる。会場出口の交差点を左折する車には、バイパスに乗らずに青島・日南方面に進む車もいることを考えると、ちょうど納まりきるくらいの台数だろう。6
すなわち、会場出口を出てからバイパスの間でも、渋滞する要素はほとんど無いのだ。
それにしても、「ひなた宮崎県総合運動公園」周辺の道路はよく設計されている。2車線のバイパスからの距離が非常に近いのはもちろんのこと、会場を出てからの車線の設計からもかなりの工夫が感じられた。
1972年に宮崎県総合運動公園が完成(一部施設)、その後1979年に当地で開催された宮崎国体にあわせて宮崎南バイパスが開通、という流れで今の道路が出来上がった。現在の道路設計が当時からのものか、後に変更されたものかは判らないが、いずれにせよ設計者には敬意の念を感じずにはいられない。
車の台数と場外駐車場
一つ気になる点として、会場を出るまでの渋滞がある。会場出口の青信号がどれくらいの間隔で出されるのかまでは調べていないが、仮に1.5分間隔とすると、終演後に出る車は毎分約36台。全ての車が出終わるには相当な時間がかかりそうな気がする。
しかし「ひなたフェス2024」では、駐車場が場内と場外に分かれている。7
場内駐車場、すなわち「ひなた宮崎県総合運動公園」の駐車台数は1,500台しかなく、山口の「King & Prince と打ち上げ花火」の際の約6,000台と比べて遥かに少ない。計算上は42分ですべての車が出ることができ、大型フェスにしてはそこまで長くないのではなかろうか。
また、場外駐車場の位置も特筆すべきものがある。
場外駐車場は2つあり、宮崎大学木花キャンパスに1,000台分、宮崎県消防学校に300台分が設置される。消防学校というかなり「お堅い」施設も駐車場として開放するあたり、県の熱意が感じられるが、それぞれの場外駐車場と会場との間はシャトルバスで移動することになる。
場外駐車場と会場の位置関係は上の画像のようになっているのだが、それぞれの駐車場から宮崎市街地・高速道路方面へ移動するとき、利用する道路がおおむね分散している。特に宮崎大学からの移動の場合、一部2車線の国道269号も利用することができ、宮崎市街地周辺での混雑も分散されると思われる。
山口の「きらら博記念公園」の場合、新山口駅のみならず山口市街地や周南・岩国・広島方面へ向かう車が一部1車線の道路に集中していたが、宮崎の場合はそもそも車の台数がはるかに少なく、しかも使用する道路の分散を図ることができるのだ。
これらの道路事情を総合的に勘案すると、ひなたフェスによる渋滞は限定的であり、
宮崎市街地へのシャトルバスが大きく遅れる心配もあまりないのではなかろうか
(当日の答え合わせが不安でもあり、楽しみでもある)。
宮崎県・宮崎市の「苦い思い出」
「ひなたフェス2024」では相当な渋滞対策がされていることがわかった。
実はかつて、会場の「ひなた宮崎県総合運動公園」では、開催されたイベントが原因で過去に深刻な渋滞が起きたことがある。
2009年、野球の国・地域別対抗戦「ワールド・ベースボール・クラシック」(WBC)を前にして、日本代表チーム「侍ジャパン」の事前合宿が宮崎県総合運動公園で開かれた。当時は大人気選手・イチローも参加していたこともあり、7日間の間に約24万人が訪れたという。
当時は会場の最大収容台数に近い約3,400台分の駐車場が用意され、しかも無料・早い者勝ちだった。
もちろんJRの臨時列車や市街地・空港からのシャトルバスは運転されたものの、やはり会場にそのまま乗り込める車は便利。宮崎南バイパスは駐車場待ちの車で埋め尽くされ、朝から大渋滞が発生したという。 そりゃそうだ
市民の生活に甚大な影響が出たのみならず、緊急車両の通行などにも支障をきたす程。2009年以降もWBCの度に当地でキャンプが開かれたが、やはり同様の渋滞が発生し、問題となっていた。
2023年のキャンプの際に初めて場内駐車場が有料化されたのに加え、台数も1,000台に減らされて場外駐車場が増やされた。事前に購入した整理券が必要なシステムになったことで、WBCキャンプによる渋滞はほとんど発生しなくなったのだ。
出典①:読売新聞オンライン – 過去に生活に影響出るほど渋滞した侍ジャパン宮崎キャンプ、駐車場有料化などで対策
出典②:NHK宮崎Web特集 – WBC宮崎キャンプの駐車場 なんで遠いの?宮崎県に聞いてみた
宮崎県はプロ野球のキャンプが盛んで、地方にしてはこうしたイベント時のノウハウをもともと持っていた。そこにWBCキャンプでの失敗の経験が加わることで、今回の「ひなたフェス2024」のような「人のスムーズな移動」に重点を置いた対策が打てるようになったのだろう。
まとめ
本シリーズの冒頭で、「鉄道時刻表ニュース」氏の大規模イベントに対する意見を紹介した。
氏のブログではこのような文言がある。
またバスも多数出すというが、そもそも車で渋滞して抜け出せなくなったらバスも止まるわけで運び出せなくなるわけだし、実際2024年5月のキンプリ新山口事件ではバスが動かなくなって新幹線の最終に間に合わず帰宅難民の駅寝が発生したのである。
出典: https://www.train-times.net/article/jrkyushu20240907
確かにバスが渋滞に弱いのは確かで、実際「キンプリ新山口事件」では悲惨な事態になってしまった。
しかし状況をつぶさに見ていくと、山口の会場と宮崎の会場では車の台数や道路の構造、会場と街・交通結節点の位置関係が大きく異なっており、「ひなたフェス2024」の場合は渋滞になりづらい環境であることがわかった。
正直、ここまでの考察を鉄道時刻表ニュース氏に求めるのは無理があるのでしょうがないだろう(氏もそこまで暇ではないだろう)。
次回は、これだけ混雑・渋滞対策がなされたものの、いまだに残る不安点について書きます。
コメント
一ツ葉有料の南線にのり朝空港にいくのですが
南線は渋滞しますかね?
コメントありがとうございます!
普段は全くと言っていいほど混まないですが、9/8~9は少し混むかもしれません。5分くらいプラスで時間を見ておいた方がいいと思います。
あと、一ッ葉有料道路はETCが使えないので気を付けてください。
空港のシャトルバスが10時には運行するみたいですのでその前には空港に付きたいと思ってます、乗り遅れてはシャレになりませんので
一ツ葉有料道路南線の、北側の入り口から宮崎空港まで20分見ておけば十分です。それ以上遅れることはほぼあり得ません
ライブの定員は約2万4千人とありますが、正式発表あったのですか?
ブログを拝見していて分析能力が凄い事に感心してます